累計の興行収入は1兆円を超えるとされ、映画史上最大のヒット作である本作だが、1976年の第一作目は公開日までは関係者に失敗作と決めつけられていた事はほとんど知られていない。
当時35歳だった監督ジョージ・ルーカスは憂鬱だったという。一作目(エピソード4)は公開の目途すら全くたっていなかった。配給会社のFOX社自体が「SF映画は一部のマニアのものでしかない」と思っていたし、ストーリーは過去の有名映画の寄せ集め。そうプロ達には批評されていた。
目利きのはずの映画館のオーナー達も全く上映の意向を示さなかったため、ルーカスが自力でパンフレットを作成して配った。主役ルーク・スカイウォーカーを演じた俳優マーク・ハミルも自分で映画館に試写会の実施を頼み込みに行った。ある映画館でようやく決まった試写会が流れを変えた。
冒頭の有名な戦闘シーンから、観客すなわち一般消費者は息を呑んだ。業界関係者の冷淡な期待とは真逆に、熱狂したという。その反応を見たFOX社はじめ映画関係者の態度は一変し、上映を決める映画館が次々に現れ、連日長蛇の列ができ、その現象は瞬く間に全米に広まった。
ここからスターウォーズ伝説が始まる。映画の失敗を見たくないと電話が通じないハワイの別荘に引きこもっていた当のルーカスに、その驚異的ヒット現象を知らせるため友人のスピルバーグ監督がわざわざ訪ねて行ったという。チームを解散して旅行中だった製作スタッフ達は、「続編製作」の号令を受けて世界中から呼び戻された。
この映画は当時映像化不可能とされ、ルーカルはこの映画のためだけに特撮スタジオ自体をゼロから立ち上げなければならなかった。結果登場したのがカメラ自体をコンピュータ制御で動かす映像技法でこのスタジオはILMと命名され、現在私達が知っているほとんどの大ヒット特撮映画はこのスタジオから生まれ、映画の歴史を永遠に変える事になった。
今や世界に君臨する大手ネット企業でも、同じような経験をしたところが少なくない。検索大手が多数上場していた時期に検索事業をスタートしたGoogleは、「今さら検索か」と呆れられたり、ネットの黎明期にはネットで本を買う事も不思議がられ、Amazonは「誰がネットで本を買うものか」と初期の投資家に相手にされなかった。民泊世界大手のAirbnbも創業時「誰が自宅に見知らぬ者を泊めるか」と呆れられて資金調達が進まなかったのは有名な話だ。
しかし最初は一部の消費者がこれらの新しいサービスを熱狂的に支持し、やがてそれは大多数の消費者にまで広がり、誰もが想像しない成長を遂げた。プロであるはずなのに「その時点では存在しない価値」を世に問うた起業家たちのイノベーションを見抜けず、創業時の投資機会を断った投資家たち。その人たちはビジネスの将来性を理解してわずかでも投資していれば大富豪になっていた。
「その世界のプロ」は過去の経験則から、破壊的イノベーションを見抜けない事が多いという事だろう。スターウォーズ第一作は、消費者目線を軽視する事がどれだけ間違っているかを、私達に語りかけてくるエピソードではないだろうか。